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品質保証
製造業に携わる多くの会社には、自社製品が既定の品質を満たしているかを確認し、その品質を担保する「品質保証」という仕事がある。人工衛星やロケットに搭載する機器(以下、宇宙機器)を製造するNECスペーステクノロジーにおいても品質保証は極めて重要な役割を担っている。
宇宙機器製造における品質保証とは、どのような仕事をし、その魅力はどこにあるのか。品質保証部のAnami Yasuaki氏に話を聞いた。

顧客要求を全て満たしていることを確認・保証する仕事
「品質保証部は、宇宙機器の機能性能や品質に関して、お客様の要求を全て満足していることを確認・保証する部門です」
品質保証の仕事についてたずねると、Anami氏は開口一番、こう切り出した。宇宙機器は一般的な家電製品やパソコン機器などと異なり、打ち上げ後に修理できるものではなく、運用期間も含めて、品質を保証しなければならない。このため、品質保証部が負う責任は大きく、技術部門や製造部門から完全に独立した部門として組織されている。
ただ、実際には“絶対に壊れない宇宙機器”を作ることは不可能であり、打ち上げ後に100%異常が起こらないことは保証できない。そこで品質保証部では、お客様と「信頼度」(部品の故障率などで算出)の数値で合意を得たうえで、この約束を守るべく、設計段階から品質の作り込みに携わり、製造・検査フェーズでは、徹底的な品質管理を行うことで、お客様から求められた品質を担保しているという。
「品質保証の仕事を身近なもので例えると、手洗いやうがいといった“予防”が当てはまります。また、病気になったらすぐに病院に行き“悪化を防ぐ”ことや、“再発しないよう対策を練る”行為も、品質保証の仕事に近いと思います。異常の発生をできるだけ防ぎ、なおかつ異常が発生したときには素早く対応し、将来の再発も防ぐ。これが私たちの仕事の本質だと考えています」
不良や事故を防ぐための「4つの業務」

品質保証のなかでAnami氏は具体的にどのような業務を担うのか。Anami氏は、自身の担当業務を「審査会対応」「不具合時の対処」「現場の安全管理」「機器の確認・検証」の4つに分解し解説してくれた。
まず「審査会対応」とは、さまざまなフェーズの担当者が参加して開催される審査会において、過去の類似不具合の再発防止策が施されているかなどを、宇宙機器の設計段階から品質保証目線で指摘することだ。
「不具合時の対処」では、製造から納品後までの全工程において、不具合が発生した際に、現場作業者へのヒアリング情報などを活用し、不具合の発生原因を突き止める。また、不具合を起こした製品に対する処理や再発防止策の立案や主導、サポートも行う。
「現場の安全管理」では、作業者の安全を管理する。取り扱う機器や試験内容によっては、不具合が発生すると大きな事故につながることも想定されるため、作業者の安全対策や事故の対策、製品の保護に問題がないか確認するために品質保証担当者が立ち会うことも多い。
そして最後の「機器の確認・検証」は、完成した宇宙機器に対して、要求仕様に基づき、正しく製造・検査が完了しているかを確認・検証する作業となる。
「4つの業務は、1つでも漏れや抜けがあると事故や不良につながるため、どれも非常に重要です。特に、最終工程の『機器の確認・検証』が大切だと私は考えています。ここをおざなりにしてしまうと、直接お客様に不良品が渡ってしまうほか、万が一打ち上げ後に故障があった場合には、人工衛星全体に影響が波及してしまいます。そのため『機器の確認・検証』においては、1つも漏れがないよう気を引き締めて業務にあたるようにしています」
“社内外ほぼ全て”の関係者と関わる職場

品質保証の担当者は、どのようなメンバーと仕事をしているのだろう。Anami氏によると、品質保証が関わるのは、電気設計、構造設計、生産技術、製造・検査など社内の他部門、および人工衛星のシステム担当者、納入先のお客様など「ほぼ全ての関係者」だという。
「宇宙機器の製造では、その全てのプロセスにおいて品質を作り込む必要があり、必然的に我々は全ての部署と関わりを持つことになります。また、納品後のお客様からの問い合わせにも我々が窓口となりますので、品質保証部は社外を含むほぼ全ての関係者と一緒に仕事をする部門だと言えます」
ただ、品質保証の仕事には、各部門の仕事をチェックする要素が含まれる。このため、相手と摩擦を起こさないための工夫も必要になるのではないだろうか。Anami氏にそうたずねると、大きく頷きながら、「感情的にならず、論理的に話すことを心がけている」と答えてくれた。
「不具合が発生した場合などには、どうしても相手を責めるような口調になりがちです。しかし、私たちの仕事の目的は相手を責めることではありません。同じことが二度と起きないよう発生源を突き止め、再発防止策を練ることです。そのため、感情的になるのではなく、論理的に話し冷静にやりとりできるよう努めています」
さまざまな部門・担当者と接する中で、多くの学びがある

Anami氏は、品質保証の仕事の魅力について、「さまざまな部門、年齢の人と話す機会があり、日々新たな発見がある点がおもしろい」と顔を輝かせながら話す。
「宇宙機器製造は、宇宙環境に適合した特殊な機器を作る世界であり、機能の実現方法や回路構成など各担当者や部門に任されている要素が多分にあります。多様な部門の人と接する私の仕事は、そうした各担当者や部門独自の考え方や技術に深く関わる機会が多く、日々新たな発見があります。たくさんの学びを得られる環境に、大きな喜びを感じています」
多くの喜びがある一方で、「宇宙環境の知識や、機器ごとの仕組みを理解することに苦労している」と、幅広い知識や知見が求められる品質保証の仕事の大変さにもAnami氏は触れた。
特に、安全対策や不具合の再発防止策の検討については、Anami氏自身「まだ未熟」だと感じており、対策が妥当かどうか判断に迷うケースも多いという。「そうしたときには、上司に助言をもらったり、同僚に業務を分担してもらったりしながら、何とか苦境を乗り越えています」と頭をかく。
「品質保証の仕事は、大変なことも多いです。でも、簡単にできあがった製品よりも、苦労して完成させた製品の方が、達成感がありますよね。例えば、自分が苦労して携わった人工衛星が無事打ち上がり、ちゃんと機能していることを聞くと嬉しくてたまらなくなります。大変なことは多々ありますが、そうした一面も含めやはり楽しい仕事だと感じています」
最初のプロジェクトで体験した“視界の劇的な広がり”
そんなAnami氏が、これまでで最も印象的だったと語るのが、約1年前、品質保証部に異動した際最初に担当したプロジェクトだ。もともとAnami氏は機器製造検査部に所属していたが、そのときに検査を担当していた宇宙機器を、品質保証部でも担当する形になったという。
「機器製造検査部にいたときには、その宇宙機器の単独の機能、例えば信号を出す、電源を供給するといった機能については深く理解していました。しかし、品質保証部に異動した後は、担当していた宇宙機器が出す信号が、次の宇宙機器にどう伝わり、それがまた別の宇宙機器にどんなアクションを起こさせるといった全体の流れがわかるようになりました」
つまり、機器製造検査部と品質保証部の両方を経験したことで、プロジェクト全体をより高い視点から見られるようになり、人工衛星全体の働きと、担当していた宇宙機器が全体の中でどう位置付けされているのかを把握できるようになったという。
「視界の劇的な広がりを体験できたという意味で、とても印象に残るプロジェクトでした」
異動2年目。さらなる技術向上を目指して
品質保証部に異動し2年目を迎えたAnami氏は、「『不具合時の対処』など、品質保証部の担当者として、まだ十分対応できていない業務もある」とし、「今後さらに技術や知見の研鑽に努めたい」と力強く話す。
近年、宇宙業界はますます活況を呈しており、 “宇宙空間で故障しない”宇宙機器のニーズが今後さらに高まっていくことは間違いない。そんな中で、宇宙機器の品質を担保する品質保証の重要性はますます増していくことだろう。NECスペーステクノロジーではこれからも、品質管理が徹底された、高品質・高性能な宇宙機器を次々と生み出していく。
Anami Yasuaki氏プロフィール
F工業高校機械科卒業
在学中は、機械加工をメインにものづくりの基礎について学んだ。
新卒入社後は人工衛星とロケットに搭載される機器の検査、試験に従事。
現在は、検査業務で培った経験を活かし、品質保証業務に従事している。
趣味はエクストリームスポーツ鑑賞。
近いうちに学生時代にやっていたBMXを再開したいと思っている。
