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生産DX ~次世代の宇宙ものづくり~
生産統括部 生産DX推進グループ(以下 同グループ)は、2025年にスタートした新しい部門だ。宇宙事業の領域でも、市場情勢や社会環境の変化とともに、従来のものづくりでは対応しきれない課題が顕在化してきている。そこへ、デジタルの力を適用して生産効率を高め、国際競争力の強化や収益性の向上に貢献するのが生産DX*のメインテーマだ。
DXの対象は、上流の技術開発領域やその他間接業務との連携なども含む、生産に関わるあらゆる領域に及んでおり、ものづくり全体の効率化を推進していくのが同グループの役割であり目標だ。
同グループの部門長としてDX化の旗振りを行うSekiguchi Takayuki氏に宇宙事業という特殊な領域で進める生産DXの手応えについて聞いてみた。
- *Digital Transformationの略

衛星需要の増加や競合企業の台頭で生産性の向上が課題
宇宙事業では、開発から生産までのプロセスや手法が、10年来変わらない部門が多い。人(熟練者)への依存や紙媒体を使用する現場が多く、長年にわたり培われた経験値や技能実績をベースに、「一品一様」(個別受注生産)の手法でベストなものづくりが可能だった。
しかし、宇宙業界は世界的な転換期を迎え、各国の衛星需要の増加やベンチャー企業の進出などで、民生品の生産に近い事業形態に変わりつつあるのが現状だ。したがって、価格面や生産スピードなどで競争が激化し、これまでの生産形態では追随できない可能性が高いと予想されている。
「近い将来、長年にわたって培われた従来のやり方では、なかなか対応しきれない場面が出てくると思います。そこをDXで変えていかなければなりません。ただし、開発や生産の領域で長年の実績に裏打ちされたやり方を、すぐに変えるというのは非常に難しいし、さまざまな要因で変えにくい部分もあります。そこへデジタルの力を少しずつ適用しながら、製品の高品質は維持しつつ、生産効率を高めていくのが、DXを推進する私たちの役割です」とSekiguchi氏は語る。
スタートしたばかりの同グループでは、人材が不足しており徐々に増員する予定で、スタッフのスキル向上もこれからの課題だ。現状の組織はスモールスタートのような状態だが、成果を1つずつ積み重ね、少しでも大きな目標や理想に近づこうとしている段階だ。
DX推進では関連部門との信頼関係を築くのが何よりも大切

スタッフに必要なスキルには、設備などのデータ収集に必要なIoTに関する知識をはじめ、データの見える化を実現するBIツールやDB構築の知識、多様な電子化ツールを作成するプログラミングスキルなどが挙げられる。
ただし、留意しなければならないのは、同グループがICTによるシステムやツールを作成し、現場へ提供するだけの業務ではないことだ。その先には、仕事のやり方や現場の文化、業務の仕組みそのものを変え、開発・生産プロセス全体を変革していく本質的な目的がある。
「生産DXは、私たちの部門だけで完結する仕事ではなく、事業全体を巻き込んで推進する必要があります。他部門との緊密な協力関係やスムーズな連携を築き、それを牽引するリーダーシップが不可欠です。また、業務現場の課題を深掘りし、しっかりと見極める能力も大切です。そういう意味では、コミュニケーション力やマネジメントスキルも重要な要素です。関連部門と的確に連携し、データ収集→見える化→分析→改善のサイクルを、円滑にまわす仕組みを構築するのが、私たちの役割でありメインテーマです」とSekiguchi氏は強調する。
そのような意味から、DXを推進するスタッフには「頼られる人」「相手に寄り添う人」になってほしいとSekiguchi氏はいう。仕組みの一方的な押しつけではなく、人同士や部門同士の密な連携が欠かせない仕事であり、信頼関係を築かなければDXは推進できないので、そこが最優先のテーマだということだろう。
開発側と生産側の双方をよく知る生産技術者の視点が重要

一般のものづくり企業だと、生産現場では上流の開発側の事情を考慮して生産しているわけではなく、また上流の開発現場は生産側のことを十分理解した上で開発しているわけではない。どちらか片方ではなく、双方の現場の視点を備えているのが生産技術者であり、双方の要求をうまく連携させるのが生産技術そのものだ。このスキルが、ものづくりにおけるDXには非常に重要だという。
「ものづくりにおけるDXは、生産技術者としての視点を常に意識することが大切です。生産だけに偏っても、開発寄りになってもいけないので、いかにICTをものづくりへ的確に適用するかという視点を忘れずに、宇宙事業のDXを進めたいと考えています。したがって、根底に生産技術者としての要素を備えた人材を、現在は募集している段階です」とSekiguchi氏。
Sekiguchi氏はNEC府中事業場で、ものづくり全体を変革するプロジェクトに3年間参画していた。当時はそのようなプロジェクトに前例がなく、活動をゼロから始めなければならなかった。その過程で、生産技術者としての視点やDXの概念が身についたと感じている。
また、一般の事業におけるDXと、宇宙事業のDXはまったく異なるという。宇宙事業のものづくりは「一品一様」、すなわち「超」多品種少量生産だ。生産DXやデジタル化のテーマは量産工場での適用例が多く、宇宙事業では通常のDXの概念が通用しない。さらに、現場全体で高度なセキュリティレベルが求められるため、閉じられた環境でDXを推進しなければならないという特殊な事情もある。そういう意味では、かつてSekiguchi氏が経験したプロジェクトのゼロスタートと、同じ地点にいるのかもしれない。
プレッシャーがある反面で大きなやりがいや達成感が魅力

宇宙事業におけるDXは、非常に困難なテーマなので苦労は多いが、やはり難しい課題をやりとげた時の達成感は非常に大きいという。Sekiguchi氏は、これまで何度もそのような経験をしているので、それが仕事へのモチベーションになっており、今回もそのような達成感を味わいたいという気持ちが強い。
「私は、子どものころから宇宙にはすごく興味があり、何かしら宇宙開発に関係した職業に就きたいと思ってきましたので、その事業に携われているのが大きなやりがいや誇りになっていると感じます。宇宙事業は最先端の技術を駆使して、高品質で高効率な製品を生産しているというイメージが強いですが、個人的にはまだまだ改善の余地があると思います。幸い現場の方々も前向きで、協力してくださる方も多いのでたいへん心強く感じています」。
宇宙事業を変革していくという役割は、一企業だけでなく社会全体へ影響を与える可能性もあるため、プレッシャーがある反面で大きなやりがいを感じている。今まで変えられなかった業務から、少しずつデジタル化を進めている現状だが、やはり進化するのが実感できて達成感があるという。
多大な実績を積み上げてきた事業では、業務のプロセスや形態を変えるのは至難だが、将来を見すえて変えなければ、日本の宇宙開発全体の遅れにも影響しかねない。
DXが成功すれば宇宙事業のものづくりで世界一になれる

業務現場には、いまだ人への依存によるアナログ的な工程が多く、同グループではデジタル化の促進で連携できる業務領域を拡大させたい意向だ。それを理想的な形で達成できれば、間違いなく宇宙事業におけるものづくりで世界一をめざせると考えている。
しかし、一気に180度変えるというのは課題も多く、現場スタッフにも少なからず抵抗があるので、今まで積み重ねてきた手法やノウハウを、少しずつ「アップデート」していくというコンセプトで変革を進めているのが現状だ。既存の仕組みに対する現場の意識は強く、それを変えなければDXはなかなか前進しない。したがって、「変革」ではなくまずは「アップデート」という概念で、徐々にDXを進めたい方針だ。
同グループは設置1年だが、一歩一歩着実に変革を進めていき、宇宙事業で不可欠な部門にならなければならないとSekiguchi氏はいう。
「私自身が当社に入って3年ほどなので、宇宙に関する知識はそれほどありませんが、宇宙事業が転換期にあるのはハッキリ分かります。DXを進めなければ、国際競争には勝てない時代が来ていますので、ある意味では新しいことにチャレンジしやすい分野でもあります。少しでも宇宙に興味がある方なら、これから何でもチャレンジできる仕事環境になっていくと思いますので、私たちの仕事に参画していただければ嬉しいです」と、Sekiguchi氏は最後に締めくくった。
Sekiguchi Takayuki氏プロフィール
NECグループ会社へ2000年に入社。生産技術者として従事し、2015年にNEC本社へ移籍。社会インフラ事業の原価低減活動を事業横断的に推進する業務、および府中事業場全体のものづくりを改革するプロジェクト推進を担当した。
2023年より当社の生産技術部へ出向となり、2025年に新設された生産DX推進部門の部門長に就任。
会社の門を一歩出れば、仕事のことは忘れスイッチがOFF状態に。気晴らしには、家族旅行やロックコンサートへ出かけたりしている。

※本記事は、2026年7月7日時点の情報です。