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生産プロセス 〜製造検査〜
人工衛星やロケットなどの宇宙機に搭載する機器(以下宇宙機器)は、さまざまな部品や線材を使用して基板を製造し、その基板を何枚も組み上げることによって形を成している。設計エンジニアが作成した図面や仕様書に基づき、そうした機器を組み立て、機器の電気性能を検査する。まさに、宇宙機器の“ものづくり”の役割を担うのが、「機器製造検査」の仕事だ。
宇宙機器はどのように作られるのか? 製造の現場で働くことの魅力とは? 機器製造検査部のYano Manami氏に話を聞いた。

“宇宙で壊れない”が大前提、高い性能と信頼性が求められるものづくり現場
「私たちの仕事を例えるなら、『模型の組み立て』です。模型の説明書を読みながら、手順を一つ一つこなし、仮組みやパーツの接着を行う作業は、宇宙機器の組み立てに似ています」
製造検査の仕事を身近なものに例えてもらうと、Yano氏からはこんな答えが返ってきた。エンジニアの図面に基づき、基板や機器を組み立てる作業は、模型作りに似ているかもしれない。しかし、当然ながら、求められる技能の高さや責任の重さは、趣味の模型作りとは別次元だ。宇宙環境で稼働する宇宙機器は、故障や不具合があったときに、その場で修理したり代替品を用意したりできない。このため、宇宙機器作りには、“宇宙空間で壊れない”ことを前提とした、極めて高い性能と信頼性が求められる。
高難度作業が多く、作業工程も複雑、それが宇宙機器製造現場の醍醐味

では宇宙機器はどのように製造されるのか。宇宙機器の製造検査には、6つの工程がある。まず、基板を組み込むシャーシや組み立てに使う補助工具(治具)を作る「機械加工」。次にはんだ付けや接着で基板に部品を取り付ける「基板製造」。基板に部品が正しく取り付けられているか確認する「外観検査」。基板をシャーシに組み込み、配線や接着を行う「機器製造」。組み立てた機器の電気性能を定められた規格に入る様に調整する「電気調整」。電気性能を作りこんだ機器を宇宙環境で試験する「環境試験」。これらの製造検査工程を経てようやくひとつの宇宙機器ができあがるのだ。
ただし、これらの作業は言葉で言い表せるほど簡単ではないとYano氏は言う。製造工程では基板一枚仕上げるにも一週間以上かかる場合も多い。はんだ付けや接着の仕上がり具合には厳しい規格があり、慎重に一点一点部品を取り付けなければならない。又、電気調整においては所望の電気特性を得るために数日かけて調整を行う場合もある。時々うーんと唸ることもありますが、そこは少量多品種で、新規設計が多い宇宙機器製造検査の腕の見せ所。「積み重ねてきた経験と技能を発揮して、困難な作業を一つ一つ対応する、同じ作業の繰り返しではないことは自分の性格には合っていて、個人的にはとてもやりがいを感じています」
仕事に厳しい技能者が集う、だからこそ安心して働ける
機器製造検査部のメンバーについてたずねると、「こだわりが強い人が多い」とYano氏は笑いながら答えてくれた。
「『このはんだ付けは規格を満たしているの?』『この配線はストレスリリーフを確保できてる(ゆとりを持った配線ができている)?』など、厳しいツッコミを入れてくる技能者が多いですね。でもその厳しさは、『宇宙で使うものを作っている』という意識が強いから生まれるもの。そういう人が多いからこそ、安心して仕事ができるところもあります」
Yano氏自身は、自分をまだ「新米」だと考えており、ベテラン技能者に的確な注意やアドバイスをもらえる環境を「とてもありがたい」と感じているという。ちなみに、NECスペーステクノロジーには、卓越した技能が評価され、「黄綬褒章」受章者や、厚生労働省の「卓越した技能者(現代の名工)」に選出された技能者が3名いる。そんなマイスターたちの仕事について話が及ぶと、「仕事が速くて、綺麗で、丁寧」だと身を乗り出す。
「マイスターの皆さんは、自分たちの模範とする存在であり、将来の目標です。そうした存在がいる職場を誇らしいと感じています」

高難度の手作業が多数発生…そこがおもしろい

Yano氏は、高校時代に「技能五輪全国大会」の電子機器組み立て部門に出場した経験を持つ。大会に共に出場した社会人たちのハンダ付けなどの技能の高さに感動し、「自分もこういう仕事に就きたい」と、少量多品種で高度な技能を要する宇宙機器製造の仕事に就いたという。
現在、製造検査の現場で働く中で、Yano氏が惹かれているのは、まさにこの宇宙機器を製造する技能の高さだ。それも、「はんだ付けや接着作業の品質の高さ」に大きな魅力を感じているという。
「顕微鏡を使ってはんだ付けしたり接着したりする作業は、繊細な手の動きが求められ、とても難しい。でもだからこそ、うまくできたときは、ものすごく嬉しいです」
難易度の高い作業に魅力を感じる一方で、Yano氏が取り組んでいるのが、下の世代への技術承継だ。
「多品種少量の現場には、『この人しかできない』という技能がたくさんあります。もし、その人がいなくなったときに、その仕事はどうなってしまうのか。そんなことを考えると、早急に下の世代に技術を教え込まないといけません」
Yano氏は今、作業分析用に用いているカメラから取得した動画データから、教育用資料として動画マニュアルを作成し、下の世代の育成に活用している。実際に動画を見た新入社員からは、「動画を見ながら、手を動かすことで、とても勉強になった」などの声が届いているほか、作業者の育成時間の短縮にもつながっているとのこと。
「まずはこのやり方でよかったんだなと、少しホッとしているところです」
最も印象深かったのは「準天頂衛星」プロジェクト
そんなYano氏が、これまでで最も印象に残っていると話すのが、“日本版GPS”こと「準天頂衛星」に搭載する機器の製造プロジェクトだ。
国家プロジェクトである準天頂衛星の機器の製造には、厳格な電気性能が求められたこともあり、「他の宇宙機器と比べて、追加工事や改修工事が多かった」という。
「設計者の方々は、かなり試行錯誤の連続だったようです。すると当然、私たちの製造現場にも解体や追加工事の依頼が入ります。納期との兼ね合いもあり、かなり大変ではありましたが、私としては、貴重な経験を積む、いい機会になりました」
また、Yano氏自身、それまで基板を製造したことはあったものの、機器の組み立てを担当するのは、初だった。また、基板の組み立ては、機器の製造工程においてはスタートラインに位置するが、そこから一段上の機器の組み立てに携わったことで、「宇宙に関わる仕事に就いている実感が強く湧いた」と目を輝かせた。
「他のプロジェクトでは、できあがった人工衛星を見学する機会もあり、担当の方から『あなたたちが作った機器はここに使われているのですよ』と説明してもらえたんですね。そのときに、自分たちは宇宙に関わる仕事をしているんだなと、実感がふつふつと湧き上がってきたのを覚えています」
“匠の技”を引き継ぎながら、“宇宙で壊れない”機器を生み出し続ける
今後注力することは何かと聞くと、「宇宙機器に関わる製造技術を、自分の中でもっと確立させて、きちんと下の世代に伝えていけるようにしたい」との答えがYano氏から返ってきた。
宇宙機器の製造現場には、次世代に残すべき技能がたくさんある。そうした“匠の技”を未来へと引き継ぎながら、NECスペーステクノロジーのものづくり現場では、“宇宙で壊れない”高性能な宇宙機器がこれからも次々と生み出されていく。
Yano Manami氏プロフィール
N工業高校情報技術科卒業
高校在籍時に「技能五輪全国大会」の電子機器組み立て部門に出場。
新卒入社後は人工衛星とロケットに搭載される基板の製造、機器の組立に従事。
現在は宇宙機器の製造で培った経験を活かし、技能の一般化、仕様書や図面の標準化、生産の自動化に取り組んでいる。
趣味は旅行とスノーボード。
いつかフィンランドでスノーボードを楽しみながらオーロラを鑑賞したい。
