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ロケット搭載機器開発
宇宙からの地球観測や通信、測位などさまざまな用途に用いられる人工衛星。その人工衛星を宇宙空間に輸送する役割を担うのがロケットだ。NECスペーステクノロジーでは、人工衛星のみならず、このロケットに搭載する宇宙機器の開発・製造も手掛けている。
「ロケット搭載機器開発」の特徴は何か。魅力はどこにあるのか。ロケット搭載機器開発のプロジェクトマネージャーであるTakada Masatoshi氏に聞いた。

ロケット打上げ中継でいろんなデータを表示できるわけは?
突然だが、皆さんはテレビなどでロケットの打ち上げ中継をご覧になったことはあるだろうか。中継では多くの場合「高度」や「速度」などロケットの状態を示す数値も表示される。それらの数値も見ながら、手に汗握りつつ中継を見守った経験がある人も多いだろう。実は日本の基幹ロケット(政府ミッション達成のために開発された国産ロケット)におけるこれらの情報は、NECスペーステクノロジーのロケット搭載機器が正常に機能しているからこそ表示できるものだ。
ロケット搭載機器は、ロケットのデータを地上に送るデータ収集装置・送信機や航法機器、バッテリなど多岐にわたる。その中からTakada氏は、ロケット搭載機器の役割を端的に示すものとして「ロケット搭載誘導制御計算機」について解説してくれた。
ロケットは打上げ前に飛行コースが定められるが、実際に打ち上がると、大気や機器の電気特性などで誤差が生じる。その誤差を補正しながら目的の場所までナビゲートするのが「ロケット搭載誘導制御計算機」の役割だ。
「具体的には、機体状態を示すいろいろなセンサのデータを取り込み、ロケットの航法・誘導・制御計算を行います。その結果を個々の制御機器に伝えることで、ロケットは予定の経路上を飛行していきます。ロケットが自律して機体を制御するための、いわば“頭脳”と言える機器で、ロケット打上げ時の振動、衝撃、温度環境、及び宇宙空間での放射線環境においても誤動作することなくノンストップで確実に機能し続けるというミッションが要求されます。」
万が一、こうしたロケット搭載機器が正常に機能しないと、ロケットは定められた軌道から外れてしまう。そうなると、周囲に危害を与えることのないように、ロケットを安全な場所で飛行中止させないといけなくなるため、載せている人工衛星もろとも失うこととなり、大きな損失が出てしまう。
「そうした意味でも、ロケット搭載機器は高い品質を求められるものであり、我々も常に緊張感を持って開発にあたっています」
日本の全ての基幹ロケットに宇宙機器を提供
NECスペーステクノロジーにおけるロケット搭載機器開発の歴史は長い。1970年代のH-Iロケットに始まり、H-ⅡA/B、H3、イプシロン、イプシロンSに至るまで、日本の全ての基幹ロケットに搭載され、数多くの打上げに貢献してきた。
「たとえばH-ⅡA/Bロケットには、計1000台を超える機器を供給しています。その他のロケットを合わせ、数多くの当社のロケット搭載機器がロケットの打上げに寄与してきたことになります」
NECスペーステクノロジーのロケット搭載機器の特長をたずねると、Takada氏は「信頼性の高さ」と答える。
「お客様からは『非常に故障が少ない』との評価をいただいています。その信頼性の高さがあるからこそ、全ての基幹ロケットへの搭載につながったのだと自負しています」
重要なのは「『品質』『コスト』のバランス」

Takada氏はロケット搭載機器の開発プロジェクトを取りまとめる立場にある。プロジェクト遂行に欠かせないスキルとしては、まず「プロジェクトマネジメントスキル」を挙げた。
「プロジェクト遂行には、当然のことながら、プロジェクトマネジメントスキルが必要です。プロジェクト全体を把握し、課題とステークホルダーを適切にマネジメントする能力。具体的にはチーム構成能力、スケジュール管理力、リスクマネジメント力、問題解決力や決断力などが必要になります」
人工衛星搭載機器の開発とロケット搭載機器の開発における違いとしては、「品質」と「コスト」の考え方の違いを挙げた。
「たとえば人工衛星に搭載する機器は、軌道上で数年、長いものでは十数年も運用することがあるため耐久性や信頼性の高いものが求められます。一方、ロケットの場合は、打上げ時の過酷な環境に耐えられる品質は必要ですが、ミッションは数時間で終了するので、長期運用に対する耐久性は不要です。さらに、今後年間打上げ機数を増やしていくことが求められているので、量産性も考慮した上で、必要十分な品質とコストのバランスを見極める能力が求められるのです」
また、ロケットの打上げ日が決まっているため、納期の遅れは決して許されない。「納期を守るためのリスク管理を特に留意している」とTakada氏はいう。
「打上げ成功」という成果が見えやすい仕事

では、ロケット搭載機器開発の魅力ややりがいはどういったところに感じているのか。「一言で言うと『打上げの成功』という成果が見えやすいところ」だとTakada氏は話す。
「打上げはニュースなどでも取り上げられて、成功・失敗を一般の人にも知ってもらいやすいことがまず魅力ですね」
また、NECスペーステクノロジーではロケット搭載機器の開発・製造のみならず、ロケット打上げ当日の「打上げ支援」も行っている。このため「自分たちが開発した機器が正常に機能し、打上げ成功に貢献したことを現場で実感できること」も大きなやりがいにつながっているという。
「ある新型ロケットの搭載機器ですが、求められる性能がなかなか出ずに開発が遅れるなど、非常に苦労しました。そのロケットが完成し、いよいよ打上げられるその当日に発射場・管制室内で打上げ支援をしていたのですが、無事にロケットが打上がり、人工衛星が軌道に投入された時に、管制室で大きな拍手が沸き起こりました。社内メンバーはもちろん、他社メンバーも含めて皆で握手をして互いを労いました。複数メーカーが一緒になってひとつの大きな仕事を達成できたことが強く感じられる出来事でした」
さらにTakada氏は帰宅後に「子どもや子どもの友人、保護者からも祝福を受けた」ことも言い添えた。
「幼稚園に子どもを迎えに行った際に、子どもや子どもの友達、保護者の皆さんが『打上げ成功おめでとう!』とお祝いの言葉をたくさんかけてくれたのです。その時に子どもに誇れる仕事をしているなと、少し胸が熱くなりました」
民間への提供や海外展開も視野に

現在日本政府は「2030年代前半までに官民合わせて年間30回ロケットを打上げること」を目標に掲げている。そうした中でNECスペーステクノロジーでも打上げ機数の増加に対応するため、生産能力増強に取り組んでいる。
加えて、現在民間ロケットの開発も増えており「そうした領域にもロケット搭載機器を提供していきたい」とTakada氏は意気込みを語る。
「そのための具体的な動きとしては、複数のロケットで使える共通機器の開発を進めています。そうすることで、生産数が増え、価格を抑えて提供できるようにしていきたいと考えています。」
なお、国内向けにさまざまなロケットに共通利用できる機器を開発した暁には「海外に広く展開する構想も抱いている」とのことだ。
「今後、打上げ機数が増えていくこともあり、ロケット搭載機器開発の業界は大きく伸びていくことが予想されます。また我々の仕事はロケットの打上げ支援にまで携われ、達成感ややりがいも得られる仕事です。一人でも多くの方に仲間に加わってもらえると嬉しいですね」
Takada Masatoshi氏プロフィール
K大学大学院 電気電子工学専攻 修了
新卒入社後は、人工衛星搭載機器の設計、サブシステム設計を経験。
その後、生産管理部・経営管理部を経て、現在はロケット搭載機器の開発、プロジェクトマネジメント業務に従事している。
趣味は旅行とキャンプ・トレッキング・ダイビング等のアウトドア。休日は大自然へ繰り出しリフレッシュし、仕事への活力をチャージしている。

※本記事は、2025年3月31日時点の情報です。